夜空のいちばんはじっこで、こっそり光る小さな星―それが水星。明け方や夕暮れ時、ほんのわずかな時間だけ、地平線近くに顔をのぞかせるこの星は「幻の星」とも呼ばれます。太陽のすぐそばに寄りそうように動き、ふだんはその強い光に隠れてしまうけれど、見つけたときには、まるで宝物を見つけたような気持ちになるのです。けれど、そんな小さな水星には、とても不思議な世界が広がっていることをご存じでしょうか?今回は、「水星って、どんな星なの?」という素朴な疑問から始まった、夜の小さな会話たち。

第3話 水星―最も太陽に近い惑星

糸島の海辺にひっそりと開くカフェに、宇宙にくわしい天の川教授がやってきました。子どもたちのまっすぐな質問に、やさしく、時に熱く答えてくれる物語です。星や月を見上げながら「宇宙ってなんだろう?」を一緒に考えてみませんか。

ひかりちゃん 01
ひかりちゃん

ねえ、あの星✨、なんかチラッと光ってたよ。見えた?

レンくん 01
レンくん

うーん…どれだろ? あっ、あれかな。ちょっと低いとこで、ピカッとしたやつ?

ソラちゃん 01
ソラちゃん

金星✨じゃないよね。あれはもっと高いところにあるし、明るいし…

天の川教授が、星空を見上げながらゆっくりと話しはじめました。

天の川教授 01
天の川教授

ふふ、それはもしかすると―水星かもしれませんね…。

水星は、太陽系のいちばん内側をまわっている惑星なんだ。太陽にとても近いから、私たちが空で見られるのは、朝日が昇る前や夕日が沈んだあとの、ほんの短い時間だけ。だから「幻の星」なんて呼ばれることもあるんだよ。空の低いところに一瞬だけキラッと光る、それが水星なんだ。見つけるのがむずかしい星だけど、見られたときは、ちょっと特別な気持ちになるよね…

それに水星は、太陽系のなかでいちばん小さな惑星なんだ。表面にはたくさんのクレーターがあって、月ととてもよく似た地形をしているよ。昔ぶつかった隕石のあとが、そのまま残っているんだ。そして何より、水星は気温の変化がすごいんだ。昼間の気温はなんと約430度。鉄が溶けるほど熱くなる。でも、夜になるとマイナス170度くらいまで冷え込んじゃう。昼と夜の温度差は600度近くにもなるんだよ。

気温差の激しい過酷な世界と神々の伝令役

ところで、なぜそんなに極端になるのかというと、水星にはほとんど大気がないからなんだ。地球みたいに空気があれば、熱をためたり逃がしたりしてくれるけど、水星ではそれができない。つまり太陽の光が当たるところは灼熱に、影になるところは極寒になってしまうんだ。

小さくて目立たないけれど、知れば知るほど奥が深い… それが、水星なんだよ。

宇宙の不思議を子どもと楽しむ物語
ひかりちゃん 01
ひかりちゃん

惑星✨って、ギリシャやローマの神話によく出てくるよね…

ソラちゃん 01
ソラちゃん

うん、水星✨って何の神さまなの?

天の川教授はうなずきながら語りはじめました。

天の川教授 01
天の川教授

うん、いい質問ですね…

水星は、古代ローマでは「マーキュリー」と呼ばれていて、「旅と商売の神」として知られています。マーキュリーはとても足が速い神さまで、羽のついたサンダルを履いて、神々の伝令役として走り回っていた。そして水星は太陽のまわりをすごく速く回っていて、地球の1年の約4分の1、たった88日で一周してしまう。それもあって「すばしっこい星」として、速さの象徴である神と結びつけられたんです。

星と神話って、昔の人の想像力と観察力のたまものなんですよ。

しんのすけ 01
しんのすけ

うん、吾輩も「すばしっこさ」なら負けないにゃん…
ほいっ、ジャンプ!

あゆむ 01
あゆむさん

うふふ… しんのすけくん、お星さまたちのメッセンジャーだったの…?

朝夕のわずかな時間にだけ現れる水星

こうして見てみると、水星は小さくて目立たないけれど、とてもユニークで奥深い星だということがわかります。太陽のすぐそばをすばやく回る姿は、まさに神話の中の「すばしっこい神さま」そのもの。昼と夜で600度も温度が変わる過酷な世界に、クレーターが無数に広がる姿は、宇宙の歴史をそのまま映しているかのようです。朝や夕方のわずかな時間にだけ現れる“かくれんぼの星”を今度空を見上げたときに、そっと探してみてください。見つけられたらきっと、ちょっとだけ宇宙が身近に感じられるはずです。

水星―最も太陽に近い惑星

NASA: https://science.nasa.gov/mercury/

太陽系8惑星と神話

惑星名ローマ神話神話の内容・特徴
水星(Mercury)マーキュリー旅と商売の神。ローマ神話のメルクリウスに由来している。羽のついた靴で空を飛び、神々の伝令役として活躍。すばやさの象徴。
金星(Venus)ヴィーナス愛と美の女神。あらゆるものを魅了する美しさを持ち、ローマ神話でも特に人気の高い女神。ギリシャ神話のアフロディーテと同一視される。
火星(Mars)マルス戦いの神。強さと勇気の象徴で、ローマでは国家の守護神とされていた。最高神ゼウスの息子。ギリシャ神話ではアレスに相当。
木星(Jupiter)ユピテル神々の王。雷を操る最強の神で、宇宙を焼き尽くすという最強の武器「ケラノス」を手にしている。ギリシャ神話のゼウスと同一視される。
土星(Saturn)サトゥルヌス農耕と時間の神。かつては黄金時代を築いたとされる古代の神で、時間・規律・収穫をつかさどる。ギリシャ神話のクロノスに相当。
天王星(Uranus)ウラヌス天の神。大地の女神ガイアとともに宇宙のはじまりに登場する原初の神。全宇宙を最初に統治した。土星の父であり、木星の祖父である。
海王星(Neptune)ネプチューン海の神。三又の槍(トライデント)を持ち、海や川を支配する。怒ると海をあられさせる力を持つ。ギリシャ神話ではポセイドン。