いちばん遠くて、いちばん静かに見える―それは「海王星」という星。青く澄んだその姿は、まるで宇宙にぽっかり浮かぶ海のようです。今回は、「海王星ってどんな星?」という素朴な疑問から始まった、夜の小さな会話たち。太陽の光がほとんど届かない、はるか彼方にあるその星には、見た目からは想像もできないような激しい風が吹いていました。

第10話 海王星―速い風が吹いてる

糸島の海辺にひっそりと開くカフェに、宇宙にくわしい天の川教授がやってきました。子どもたちのまっすぐな質問に、やさしく、時に熱く答えてくれる物語です。星や月を見上げながら「宇宙ってなんだろう?」を一緒に考えてみませんか。

その夜、レンくんがカフェのソファに身を沈めながら、ぽつりとつぶやいた。

レンくん 01
レンくん

天の川さん。海王星って、すごく青いけど… どんな星なの?

ひかりちゃん 01
ひかりちゃん

今夜は、さいむね、お空が海のような青くて…✨

天の川教授は、ふたりの視線を追いながら、やわらかく話し始めた。

天の川教授 01
天の川教授

海王星はね、太陽系のいちばん外側を回っている惑星なんだ。

太陽からの距離は約45億キロ。あまりにも遠すぎて、太陽の光が届くのにも4時間以上かかる。でも、そんな遠くにいるのに、海王星はとても鮮やかな青色をしている。その理由は、天王星と同じように、大気中に含まれるメタンが赤い光を吸収し、青い光を反射するからなんだよ。けれど、海王星の青さは天王星よりも濃くて深い。その青は、まるで地球の海のようにも見えるけれど、実際には水ではなく、冷たいガスでできた大気なんだ。

海王星―速い風が吹いてる

海王星には超高速の風が吹いている

その大きさはというと、直径は4番目に大きくて、重さは地球の約17倍。質量では3番目に大きな惑星なんだよ。実はこの星ね、天王星の軌道の乱れを研究していた天文学者たちが、もしかして、まだ見つかっていない星があるのでは?って数学的にその存在を予測して… そして1846年に、本当に発見されたんだ。まさに計算で導き出された星なんだよ。それから1989年、ボイジャー2号が海王星に近づいたとき、うすくて見えにくい環(リング)があることもわかった。遠くの静かな星だと思っていたけれど、海王星もまた、いろんなふしぎを秘めている存在なんだよ。

海王星はね、きれいな星、それだけでは終わらない。そして、海王星でもっと驚くのはね… 風の速さなんだ。海王星の大気には、時速2,000キロを超える超高速の風が吹いていて、これは音速を超えるほどの速さになる。台風どころじゃない。地球だったら、すべてのものが吹き飛んでしまうレベルの風が、星全体で起きているんだよ。どうしてそんなに速いのか、まだよくわかっていない。でも、太陽の熱がほとんど届かないのに、こんなに激しい動きがある。それが海王星の不思議さなんだ。

静かそうに見えて、実はすごく激しい。それはどこか、心の奥にある感情のようでもあった。

しんのすけ 01
しんのすけ

にゃん…。パタパタ… ぼくのしっぽ、揺れているかにゃ…

あゆむ 01
あゆむさん

うふふ… しんのすけくん… 見た目と中身がちがう星って、なんだか人にも似ていますね。

青く静かに見える海王星も、きっとずっと自分の中で、風を吹かせ続けているんでしょうね。

海王星は太陽系の第8惑星

青くて遠くて、静かに見える星。でもその中には、誰にも止められないほどの風が吹いている。太陽の光すら届きにくい場所で、海王星は今日も音もなく、自分の中の風をまわし続けている。見た目ではわからないこと。遠い場所にあること。それでも、そこにはちゃんと動きがあって、鼓動のようなものがある。静かに見えるものほど、心の中に大きな風を持っているのかもしれない。

たとえその姿が見えなくても、海王星は、ちゃんと宇宙の一部として、青く、激しく、生きている。そしてその風は、いつか私たちの心にも、ふわりと届くのかもしれない。

宇宙の不思議を子どもと楽しむ物語

NASA: https://science.nasa.gov/neptune

糸島の観測スポット:加布里干潟(かふりひがた)

海王星のように静かな夜を感じたいなら、糸島の加布里湾がおすすめです。とくに潮が引いたあとの干潟沿いでは、波音さえも遠のいたような静寂が広がり、まるで宇宙とつながったような感覚になります。この場所では、夜空に星が静かに浮かび上がり、見えない海王星の姿にも、遠い風の音は聞こえなくても、心で触れられるような気がしてきます。

※夜の干潟は足元がぬかるみやすいため、防水の靴と懐中電灯をお忘れなく。