2025年7月5日――この日付が、ある種の「大災害予言」としてインターネット上で話題になったことをご存じでしょうか? 実際に何事もなくこの日を迎えられたことに安堵する一方で、今回の出来事をきっかけに「地震」について深く考え、学び始めた方も多いのではないでしょうか。
「予言」の真偽はさておき、私たちは地震が頻繁に発生する日本に暮らしています。だからこそ、地震のメカニズムを正しく理解し、備えることは、年齢や立場に関わらずすべての人にとって非常に重要です。今回の記事では、その「予言」を「きっかけ」として、地震の基本的な仕組みから、私たちの足元で何が起きているのかまでを、「詳しく、でも分かりやすく」解説していきます。
なぜ地震は起きるのか?
まず、最も基本的な疑問から始めましょう。なぜ、地震は起きるの?
地球の表面は、まるでパズルのピースのように、いくつかの大きな岩盤に分かれています。これらを「プレート」と呼びます。私たちが住む日本列島は、このプレートが何枚もぶつかり合ったり、すれ違ったりする、非常にダイナミックな場所に位置しています。
想像してみてください。これらの巨大なプレートは、地球の奥深くにある熱いマントルの「対流(たいりゅう)」というゆっくりとした動きに乗って、年間数センチメートルずつ動いています。私たちの髪の毛が伸びるのと同じくらいの、本当にゆっくりとした速さです。
このプレートが、ぶつかったり、沈み込んだり、すれ違ったりする境界部分では、大きな力が加わり続けます。まるで固い板を押し合い続けるようなものです。最初はゆっくりと歪みが蓄積されていきますが、やがてその限界を超えたとき、岩盤が「パキッ」と壊れるようにズレ動きます。このズレ動く現象こそが「地震」なのです。

地震の揺れの正体
「地震が起きた!」と感じるあの「揺れ」の正体は何でしょうか? それは、地下で岩盤がズレたときに発生する「地震波」というエネルギーの波です。地震波には主に2つのタイプがあります。
- P波: 地震が起きて最初に到達する波で、「Primary(最初の)」という意味です。縦波なので、物が前後に揺れるような「ドン」「ユラユラ」といった小さな揺れを感じます。速いので、緊急地震速報はこのP波を捉えて発表されます。
- S波: P波の後に少し遅れて到達する波で、「Secondary(二番目の)」という意味です。横波なので、大きくグラグラと揺れるような、被害をもたらしやすい揺れです。
このP波とS波の時間差を利用して、震源地からの距離を計算し、揺れが来るまでのおおよその時間を予測しているのが緊急地震速報の仕組みです。さらに、この2種類の波が地表に伝わることで発生する「表面波」という波もあり、これが建物を大きく揺らす原因となることもあります。
震度とマグニチュード
地震のニュースでよく耳にする「震度」と「マグニチュード」。この二つの違い、ご存じですか?
マグニチュード
これは、地震そのもののエネルギーの大きさを表すものです。震源地でどれだけの規模の地震が発生したか、という「地震の絶対的な大きさ」を示す値です。例えるなら、電球のワット数(どれくらい明るいか)のようなものです。マグニチュードが1増えると、エネルギーは約32倍にもなります。
震度
これは、ある場所での「地面の揺れの大きさ」を表すものです。同じマグニチュードの地震でも、震源からの距離や地盤の固さなどによって、場所ごとに揺れの感じ方は異なります。例えるなら、電球から離れるほど暗くなるように、場所によって「明るさの感じ方」が違うのと似ています。震度は、震度0から震度7までの10段階(震度5と6はそれぞれ「弱」「強」があるため)で示されます。
たとえば、大きなマグニチュードの地震でも、遠く離れた場所では震度が小さく、ほとんど揺れを感じないこともあります。逆に、マグニチュードはそれほど大きくなくても、震源が非常に浅く、真上で起きた場合には、震度が大きくなり大きな被害が出ることもあります。

日本の地震リスクを知る
日本には、過去に繰り返し活動し、将来も活動する可能性のある「活断層」が数多く存在します。私たちの足元、福岡県糸島市周辺にも「警固断層帯(けごだんそうたい)」という活断層があり、過去には大きな地震(2005年の福岡県西方沖地震など)も発生しています。
さらに、日本列島の太平洋側には「南海トラフ」と呼ばれる巨大な溝があります。ここでは、フィリピン海プレートがユーラシアプレートの下に沈み込んでおり、過去に約90~150年間隔でマグニチュード8クラスの巨大地震(南海トラフ地震)を繰り返し発生させてきました。将来の発生が懸念されており、その影響は九州から関東にかけて広範囲に及ぶと予測されています。
このような具体的なリスクを知ることは、私たちの防災意識を高める上で非常に重要です。
冷静な科学的理解と適切な備え
予知夢の作者が示した2025年7月5日は何事もなく過ぎ去りました。しかし、このような根拠のない情報がインターネット上で拡散されることは、社会的な混乱を招き、人々の不安をいたずらに煽るだけでなく、時には経済活動に悪影響を及ぼす非常に危険な側面があることを、私たちは改めて認識すべきでしょう。
この経験を単なる「デマだった」と片付けるのではなく、むしろ「地震について深く考えるきっかけ」として捉えた方もいたのではないでしょうか。不確かな情報に惑わされず、正確な情報に基づいて行動することの重要性を再認識する機会と捉えることができます。私たちは今後も、情報のリテラシーを高め、冷静な判断力を養っていく必要があります。
科学的な知識は、私たちに「正しく恐れる」ための力を与えてくれます。根拠のない情報や不安に振り回されるのではなく、地震のメカニズムを理解し、現在の科学で何がどこまで分かっているのかを知ることで、冷静な判断と適切な備えが可能になります。
地震は避けられない自然現象ですが、その被害を減らすことはできます。まずは、ご家庭でハザードマップを確認し、家族と避難場所や連絡方法について話し合ってみてください。そして、非常用持ち出し袋の中身を点検し、最低3日分の水や食料を備蓄することも大切です。
今回の経験を教訓とし、日頃からの備えを確かなものにしていきましょう。地球の鼓動を科学的に理解し、それと賢く共存していくことが、私たちに求められています。
