星空を見上げるとき、まるで物語の中にしかないような不思議な形をした星がある。それが土星―くっきりと輪をまとった美しいリングの星です。今回は、「土星のリングってなにでできてるの?」という素朴な疑問から始まった、夜の小さな会話たち。宇宙の中で、ただひときわ目立つその姿に、いったいどんな秘密がかくれているのでしょう…。
第8話 土星―美しいリングの秘密
糸島の海辺にひっそりと開くカフェに、宇宙にくわしい天の川教授がやってきました。子どもたちのまっすぐな質問に、やさしく、時に熱く答えてくれる物語です。星や月を見上げながら「宇宙ってなんだろう?」を一緒に考えてみませんか。

ねえ天の川さん。土星のまわりにある“わっか”って…あれ、なに?
その夜、カフェの大きな窓から見える空は、深い藍色に染まっていた。レンくんがマグカップを両手で包みながらぽつりとつぶやくと、ソラちゃんも興味津々で身を乗り出した。

星に、あんなにくっきりしたリングがあるの不思議だよね…?
ふたりの問いかけに、天の川教授は笑みを浮かべてうなずくと静かに語り始めた。

土星のわっか―あれは環(リング)と呼ばれていて…
太陽系のなかでも特に美しい現象のひとつだよ。とても大きくて広がっているように見えるけれど、実はその厚みはとても薄い。広さは直径でおよそ28万キロメートルもあるのに、厚さはたったの10〜100メートルほどなんだ。そしてそのリングは、無数の氷や岩のかけらでできている。大きさもバラバラで、砂粒くらいのものから、家くらいの大きさの塊まで。それらが土星のまわりをぐるぐると高速で回り続けている。あの美しい帯のように見えるのは、まるで巨大な氷と石のダンスなんだよ。

土星は木星と同じ巨大なガス惑星
土星は、木星と同じように、主に水素とヘリウムでできた巨大なガスの星で、私たちが立てるような固い表面は存在しません。その本体の直径は地球の約9.5倍、質量はおよそ100倍にもなるほどの大きさです。でも、そんな遠くて大きな星なのに、街中でも肉眼で見つけることができる明るさを持っています。
静かに3人は話に聞き入っていた。空の向こうにある星に、まるで芸術のような現象があるなんて、想像すればするほど、胸が高鳴っていく…。

土星だけでなく、木星や天王星、海王星にもリングはあるんだけど…
土星のリングはとびきり大きくて、明るくて、遠くからでもよく見えるんだ。どうして土星のリングだけこんなに目立つのか、その理由は今も研究が続けられている。もしかしたら、昔、土星のまわりにあった衛星(小さな月)が壊れて、その破片がリングになったのかもしれないし、あるいは、もともと集まりきれなかった材料が土星の引力にとらわれてリングをつくったのかもしれない。ひとつだけ言えるのは、あのわっかは、ものすごく絶妙なバランスで成り立っているってこと。少しでも違っていたら、全部バラバラに落ちてしまっていたかもしれない。だからこそ、あの美しさは偶然の奇跡とも言えるんだ。
土星のリングは宇宙が作った芸術品

ころんと丸くなりながら、ひまわりも頭にわっかつけて虹の橋をわたったにゃ…。そこでくるんとしっぽを巻いた。
どこか、土星のリングのようにも見える姿に天の川教授が目を細める。

くるくると回る氷のダンス…。いつか、本物を見てみたいですね。でも、こうして話を聞いているだけでも… もう十分、夢みたいです
空には見えなくても、宇宙の彼方では、今日も土星のリングがくるくると回っている。氷と岩のかけらが織りなす、静かで壮大なダンス。そのひとつひとつが、壊れずに、ぶつからずに、絶妙なバランスで軌道を保っている。まるで宇宙がつくった、ひとつの芸術作品のよう。
美しいものには、ちゃんと理由があって、そしてときには、理由なんてなくても、ただそこにあるだけで、心が震えることもある。遠くて届かない星だけれど…。
土星のわっかを思い浮かべるだけで、少しだけ宇宙が近くなったような気がした。

NASA: https://science.nasa.gov/saturn