前回の記事で、地震がなぜ起きるのか、その仕組みについて深く学びました。地震は、地球のプレートが動くことで発生する自然現象ですが、その地震によって引き起こされる、もう一つの恐ろしい自然現象があります。それが「津波」です。

地震が起きて揺れが収まったからといって、安心はできません。特に海沿いに住む私たちにとって、津波は地震とセットで考えるべき重要な脅威です。今回の記事では、津波がどのように発生し、私たちの元へ押し寄せるのか、そのメカニズムを「詳しく、でも分かりやすく」解説していきます。

普通の波と「津波」の決定的な違い

まず、「津波」とは一体どんな波なのでしょうか? 海岸で見かける通常の波(風波)とは、似て非なるものです。津波は、普通の波のように「砕ける」のではなく、まるで「海面が盛り上がって陸に流れ込む」ように見えます。これが、津波の持つ破壊力の源なのです。

通常の波(風波)

風の力で海面が揺れることで発生し、水面近くの海水だけが動きます。波長(波と波の間隔)は数メートルから数百メートル程度で、周期(波が来る間隔)も数秒から数十秒と短いです。

津波

地震などによって海底が大きく変動することで発生し、海の底から海面までの海水全体が動きます。 波長は数十キロメートルから数百キロメートルと非常に長く、周期も数分から数十分と長大です。そのため、沖合では波の高さがわずか数十センチメートル程度でも、その下には膨大な量の海水が動いているため、陸に近づくと恐ろべき巨大な壁となって押し寄せます。

津波ってどんな波? 普通の波との決定的な違い

地震で津波が起きるのは海底の「せり上がり」が鍵

では、地震がどのように津波を引き起こすのでしょうか? すべての地震が津波を起こすわけではありません。津波が発生するには、いくつかの条件が必要です。最も一般的な津波の発生メカニズムは、海底で「逆断層」や「衝上断層(しょうじょうだんそう)」と呼ばれるタイプの地震が起き、海底が大きく「せり上がる」ことです。

想像してみてください。海底のプレートがぶつかり合い、片方のプレートがもう一方の下に潜り込む「沈み込み帯」で地震が起きると、陸側のプレートが跳ね上がるように変動することがあります。このとき、その上にあった海水全体が持ち上げられ、巨大な水の塊ができます。

この持ち上げられた水の塊が、重力によって周囲に広がり始めます。これが津波の「始まり」です。まるで、お風呂の栓を抜いたときに水が渦を巻いて流れていくように、海底の変動によってできた水の山が、波となって四方八方に伝わっていくのです。

横ずれ断層(プレートが水平にすれ違うタイプ)の地震では、海底の上下変動が小さいため、大きな津波は発生しにくいとされています。津波は、海底の「垂直方向の動き」が非常に重要なのです。

沖から沿岸へ、その姿を大きく変える波

海底で発生した津波は、どのようにして私たちのもとへ到達するのでしょうか?

沖合での津波

深い海では、津波は非常に速く伝わります。ジェット機にも匹敵する時速数百キロメートルもの速さで、何千キロメートルも離れた場所まで到達することができます。しかし、このとき沖合での波の高さはわずか数十センチメートルから数メートル程度と低いため、船の上ではほとんど気づかないこともあります。波長が非常に長いため、波というよりは「海面全体のゆっくりとした盛り上がり」のように感じられます。

沿岸に近づく津波

津波が浅い沿岸に近づくと、その挙動は大きく変化します。海底との摩擦によって波の速度は急激に遅くなりますが、エネルギーは失われません。このエネルギーが、波の高さに集中するため、波長が短くなり、波の高さが急激に増大します。

まるで、高速道路を走っていた車が、急に渋滞に巻き込まれて速度を落とす代わりに、車間距離が詰まって車列が密集するようなものです。津波も同じように、速度が落ちる代わりに、水が積み重なって「巨大な水の壁」となって陸に押し寄せるのです。湾の奥やV字型の地形の場所では、津波のエネルギーが集中しやすいため、さらに波高が高くなる傾向があります。

沖から沿岸へ、その姿を大きく変える波

津波の二次災害と「引き波」の危険性

津波の恐ろしさは、その破壊力だけではありません。一度だけでなく、何度も押し寄せることがあります。最初の波が最も大きいとは限らず、数十分から数時間後に、より大きな波が来ることもあります。また、津波が陸に押し寄せる前に、海水が沖へ引いていく「引き波」現象が起きることがあります。海底が見えるほど潮が引くことがありますが、これは「津波が来る前兆」であり、絶対に近づいてはいけません。好奇心で近づくと、次の巨大な波に巻き込まれてしまいます。

命を守るために科学的理解と迅速な行動

地震の知識を深めたように、津波についても正しく理解し、備えることが私たちの命を守る第一歩です。

津波は、地震発生から数分~数十分で到達することもあります。揺れを感じたり、緊急地震速報で「津波の恐れがある」と聞いたり、あるいはテレビやラジオで津波警報・注意報が発表されたら、すぐに高台へ避難することが最も重要です。「津波てんでんこ」という言葉をご存じでしょうか。これは、「津波が来たら、家族に構わずてんでばらばらに高台へ逃げろ」という意味です。家族を待つ間に逃げ遅れてしまう危険性を避けるための、先人たちの知恵です。

福岡県糸島市を含む玄界灘沿岸は、過去に朝鮮半島沖の地震や日本海東縁部の地震による津波の到達も記録されています。南海トラフ地震のような大規模な地震でなくても、遠くの地震や、比較的近い場所の活断層の活動によっても津波が発生する可能性はゼロではありません。ハザードマップで自宅や職場の津波浸水想定区域を確認し、避難経路を家族で話し合っておきましょう。そして、いざという時には、迷わず、迅速に、高台へ避難する。この行動が、あなたの命を守る盾となります。

津波から命を守るために:科学的理解と迅速な行動

国土交通省・気象庁