宇宙には、ときどきちょっと変わった星がある。それは―天王星。まるで、自分だけのルールで回っているような、不思議な存在。今回は、「天王星って横向きに回ってるって本当?」という素朴な疑問から始まった、夜の小さな会話たち。太陽のまわりをぐるぐるとまわる惑星の中で、なぜか一人だけ寝転がったままの天王星。そこには、宇宙の歴史と偶然がつくり出した、大きな謎がかくれていました。
第9話 天王星―横に倒れている…
糸島の海辺にひっそりと開くカフェに、宇宙にくわしい天の川教授がやってきました。子どもたちのまっすぐな質問に、やさしく、時に熱く答えてくれる物語です。星や月を見上げながら「宇宙ってなんだろう?」を一緒に考えてみませんか。
その夜、カフェの窓からのぞく空には、ひんやりとした風が流れていた…

天の川さん、天王星って、横向きになってるって本当?
レンくんの問いかけに、ソラちゃんも首をかしげながらつぶやく。

星って、ふつう立って回ってると思ってたのに… どうして?
天の川教授は、グラスの水を静かにひと口飲むと、ふたりのほうを見て話し始めた。

いい質問だね。そう、天王星は横倒しになったような姿勢で回っている珍しい惑星なんだ。
ふつうの惑星は、地球のようにちょっとだけ傾いた状態で自転している。でも天王星は、なんと自転軸が98度も傾いていて、まるで寝転がっているように横向きで回っているんだよ。その理由ははっきりとはわかっていないけれど、昔、巨大な天体がぶつかったせいで傾いたのではないかと考えられている。
太陽系の誕生のころ、まだ惑星ができたばかりの混沌とした時代… そのときに起きた衝突が、天王星の不思議な姿勢をつくったんじゃないかって言われているんだ。


星も、昔は転んだことがあるなんて… それはちょっと、おもしろい。✨
少し驚いたように3人は目を見合わせた。

しかもね、天王星は見た目もとてもユニークなんだ。
天王星に磁場があり空にはオーロラがみえる…
色は青緑色で、まるで氷のように冷たそうに見える。実際、天王星は氷の巨人と呼ばれていて、表面温度はマイナス200度以下になることもある。その中身も、木星や土星のように主に水素とヘリウムからできているけど、そこに氷やアンモニア、メタンといった冷たい物質が多く含まれているんだ。青く見えるのも、大気中にあるメタンが赤い光を吸収して、青い光だけを反射している。だから空の色じゃなくて、星そのものが青いように見えるんだよ。
さらに、天王星ってね、地球の約4倍もの大きさがある、巨大な惑星なんだ。そして、土星ほど目立たないけど、うすくて見えにくい環(リング)もちゃんとあるんだよ。それから、1986年にやってきたボイジャー2号っていう探査機が、天王星のまわりに磁場があることを確認したんだ。その強さは、なんと地球とほぼ同じくらい。こんなに遠くの星なのに、ちゃんと自分の磁力の力を持っているんだよ。さらに、2011年にはハッブル宇宙望遠鏡が、天王星の空にオーロラの嵐をとらえたんだ。遠く離れた宇宙の片すみにあるこの星でも、光のショーみたいな出来事が起きているなんて、なんだかロマンチックだよね。

うにゃあ…あぁ。ほいっ、コロコロ… ぼくも横に転がるにゃん!

うふふ… しんのすけくん、汚れちゃいますよ… 横になってる星があってもいいですよね。そのほうが、ほっとする夜もありますし…
天王星は今日も静かに回っている
寝ころんだような姿で、静かに宇宙をまわり続ける天王星。その姿は、ほかの星とはちょっとちがっていて、でもどこか落ち着いていて… まるで、がんばりすぎないことの大切さを教えてくれているようだった。理由ははっきりわからなくても、遠い昔のなにかが今につながって、天王星は今日も静かに回っている。それはきっと、人間だって同じかもしれない。
まっすぐでなくても、いろんなあり方があっても、それぞれ、この世界を旅しているということ。
空を見上げて、天王星の存在を思い出したとき、自分の中の「ちょっと変わってるかも?」という部分にも、そっとやさしくなれたら… それだけで十分なのかもしれない。

NASA: https://science.nasa.gov/uranus