夜空にひときわ明るく光る、美しい星―それが金星。「明けの明星」「宵の明星」とも呼ばれ、太陽の次に明るく輝くその姿は、小さなころから「いちばん見つけやすい星」として、私たちの目をひきつけてきました。けれど、そのキラキラの奥には、想像もできないような秘密がかくれているのです。今回は、そんな「金星ってどんな星なの?」という素朴な疑問から始まった、夜の小さな会話たち。
第4話 金星―キラキラと輝く秘密
糸島の海辺にひっそりと開くカフェに、宇宙にくわしい天の川教授がやってきました。子どもたちのまっすぐな質問に、やさしく、時に熱く答えてくれる物語です。星や月を見上げながら「宇宙ってなんだろう?」を一緒に考えてみませんか。
その夜、レンくんとひかりちゃんは、店の外の空をじっと見上げていた。宵の空に、ひときわ明るく輝く星がぽつんと浮かんでいる。まるで、夜がはじまる合図のように、静かにその存在を主張していた。

ねえ、天の川さん。あのキラキラ光ってる星って金星?
レンくんがつぶやくと、ひかりちゃんも…

うん、ほかの星よりずっと明るく見えるね。✨
ふたりのまなざしは、ひとつの光に吸い寄せられていた。

そう、あれが金星。
天の川教授はそっとグラスを置くと、ふたりの肩越しに空を見上げながら話し始めた。
明けの明星や宵の明星とも呼ばれている、太陽の次に明るく見える天体だよ。太陽が沈んだあとの空や、朝日が昇る前の空に、いちばん最初に光り始めるのが金星なんだ。だから昔から、多くの人がこの星を見つけては“光の導き”のように感じていた。
けれど、その美しさとはうらはらに、金星の中身はとても過酷な環境なんだ。表面の温度は、およそ470度。鉛が溶けてしまうほどの高温だよ。その理由は、大気のほとんどが二酸化炭素でできていて、分厚い雲が温室のように熱を閉じこめてしまうからなんだ。さらにその雲の正体は硫酸。濃くて重たい雲が空全体をおおい、まるで星全体が毒のガスで満たされているような状態なんだ。

金星は太陽の光をはね返して輝いている
そのうえ、大気の流れはとても激しくて、秒速100メートル以上の風が吹き荒れている。まるで嵐の中に閉じこめられた星。それが、私たちが「キラキラの金星」と呼んでいるものの正体なんだ。でも、そんな過酷な環境にもかかわらず、金星はあんなにも明るく見える。それは、硫酸の雲が太陽の光をよく反射するから。まるで大きな鏡のように、太陽の光をはね返して、空にキラキラと輝いて見せているんだ。
金星は大きさも地球ととてもよく似ていて、地球の双子星なんて呼ばれることもあるけれど、実際はまったくちがう。表面の大気圧は地球の約90倍にもなり、これは海の底、1000メートルの深さに相当する圧力なんだ。しかも、自転の向きは地球と逆で、1回まわるのに約243日もかかる。これは公転の周期(約225日)よりも長く、1日が1年より長い星でもある。
水も空気もない、灼熱と激しい嵐に包まれた世界。そっくりだけど、まるで正反対のふたり。そんな印象の星なんだよ。天の川さんの話をじっと聞いていたふたりは、しばらく空を見つめ続けていた。

ぼくの目も金星のように✨キラキラ✨と輝いてるにゃん…

あはは… 美しさの奥にあるものを知ると、星も人も、猫ちゃんも、いつもとすこし違って見えてきますね。
そこで天の川教授は、空の金星を見ながらつぶやいた。

見た目じゃわからないことって、星にもあるんだよね… でも、そんな金星だからこそ、本当の姿を知ろうとすることが大切なのかもしれない。
金星は今夜も変わらず輝いている…
空に浮かぶ金星は、今夜も変わらずキラキラと輝いている。けれど、その光の奥にあるのは、私たちの想像を超える過酷な世界。高温の地表、重たい空気、吹きすさぶ嵐…。そんな星が、美しく光って見えるということに宇宙のふしぎが詰まっている。外見だけではわからないもの。だからこそ、知ろうとする気持ちが大事なんだ。星にも、人にも、もっと奥深い一面がある。
天の川さんの話を聞きながら、ふたりの心の中にはひとつの気づきが生まれていた。今夜も空には、キラキラ光る金星。そして、そばには風が吹いて、水が流れて、呼吸ができる星、地球がある。そんなことを思いながら、ふたりはそっと、夜空の光を見つめていた。

NASA: https://science.nasa.gov/venus